鳥籠に囚われた姫
月も出ていない。強い風の吹く晩である。
旅人でごった返す宿場町は花街のような賑わいであった。
家茂将軍を護る腰元候補として、浪士組に同行したすみれは天守閣のような三階の一角に部屋を取っていた。
二階の踊り場に鍵のかかった扉が付いている。この部屋には誰も入れない。
「不逞な輩が危害を加えてはならん」
世話役の山岡鉄太郎(のちの鉄舟)の気遣いであった。
(まぁ、無理ないわね)
軽くまとった桜色の単衣をのすそをくつろげて、すみれは横座りした。
ここまでの道中、すみれにちょっかいをかける浪士どものなんと多かったことか。
ガラも悪く、ヤクザまがいのものが少なくない浪士組である。
礼節を知る者などほとんどいなかった。
その度に、血気盛んな永倉新八や原田左之助、藤堂平助らが追い払うが、喧嘩になったことは一度や二度ではなかった。
「兄上さまたち……どうしてるかな?」
すみれは手すりのついた腰高窓に寄りかかった。
そこで、息をのんだ。
街の往来のど真ん中。高々と積み上げられた篝火が、夜空を焦がしていた。
篝火は次々と枯れ木や板切れが積まれ、もうもうと煙を上げている。宿場町を飲み込みそうなほどの勢いだ。
それを指示しているのは、水戸天狗党の芹沢鴨。
その前に這い蹲り、頭を下げているのは、すみれの養父・近藤勇であった。
「お父上さま、どうして……!」
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