鳥籠に囚われた姫 あの雪の朝に…

壬生浪士組が会津藩のお預かりになって数日が過ぎた。
すみれに許されている自由は庭で散策をすることと、縁側で本を読むことだけだ。

だが、心眼(透視力)を使えば屯所の様子は手に取るようにわかる。

歳三、山南、近藤は南座敷で膝を突き合わせて会議中らしい。
原田や新八、平助の三人は仮設の道場で剣の稽古をしていた。
(あれ……一兄上さまと総司兄上さまは?)
心眼の範囲をさらに広げた。

八木邸の隣に、壬生寺という寺院がある。
山門に『壬生延命地蔵尊』という扁額がかけられ、境内も広い方だ。

そこで、斎藤と総司は稽古をしていた。
ぶつかり合う木刀は火花を散らし、空気を切り裂く。
斎藤が木刀を打ち下ろすと、総司は流すように跳ね上げる。
そのまま得意の突きを繰り出したが、斎藤はひらりと身を翻して総司の後ろを取る。
「しまった。後ろをとられ……」
その瞬間、総司の脇腹に斎藤の木刀が打ち込まれた。ただし、寸止めである。
「これで、50勝50敗か。今回は君の勝ちだね」
互いに一礼してつぶやく総司に、一は小さく吐息した。
「今日のお前の剣には迷いが感じられた。何かあったのか?」
「何って……」
「俺がすみれと二人でいたのが癪にさわったか?」
「それもあるけどさ……一くん、初めて人を斬った時のこと、覚えてる?」
「桜田門外の変の時か? 無論。忘れるはずがない」

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