鳥籠に囚われた姫
永倉新八や原田左之助らは芹沢鴨と島原に向かったが、総司は断った。
もう疲れて眠いからと弁解したが、本当は違った。
(せっかくの酒がまずくなるんだよね)
芹沢の手柄顔が総司の癪にさわっていた。
湯浴みをしたら、少しさっぱりした。
総司は自然とすみれの寝所に足を向けた。
「歳三兄さんから目を離すなって言われてるしね」
言い訳がましくつぶやいた総司は、すみれの寝所の前で足を止めた。
障子から灯りが滲んでいる。
こんな遅い時間に起きてる?
不審に思った総司の耳にすみれの喘ぎ声が入った。
「んんっ」
かすかな衣摺れと口づけられる音。
誰かが夜這いに来ているようだ。
「大丈夫か? すみれ」
一の囁く声がした。
すみれの艶っぽい声がこたえる。
「大丈夫です……兄上様こそ、お疲れでは……」
「俺はいい。こうしているほうが疲れが取れる」
(相手は一くんか。今夜は先を越されちゃったか)
胸にじりじりと灼けつく痛みを感じながら、総司は自分の寝所へと引き返した。
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