鳥籠に囚われた姫 縛め二
朝陽が山から顔を覗かせ始めた。室内は明るくなりつつあった。
実のところ、歳三は寝てはいなかった。
狸寝入りで、すみれの回想を心の目で視ていたのだ。
歳三は寝返りをうった。そっとすみれの黒髪に口付ける。
「お目を覚まされました?」
「いろいろしなきゃならないことがあるからな。いつまでも、寝てられねえだろ」
京都守護職を務めているのは会津藩。
隊を結成しても、後ろ盾がなくては無頼の輩だとみなされる。そこに頼み込みに行く予定である。
「うまくいくといいですね」
「芹沢さんが会津藩につてがあるって豪語してやがったからな。口先だけじゃねえことを祈るぜ」
すみれは布団の上に正座すると、手をついて頭を下げた。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。おかえりをお待ちしております」
洗練された立ち居振る舞いは、育ちの良さを思わせた。
もとは、名を聞いたら誰もが驚く大名の姫なのだ。
その姫君がどうして新選組にいるかというと……
「俺たちを恨んでいるか? すみれ」
着流しから羽織袴に着替えながら、歳三はすみれをうかがった。
着替えを手伝うため、歳三の後ろに回ったすみれは、不思議そうに歳三を見上げた。
「京に来て以来、ずっとお前の自由を奪ってる。外出もさせねえし、試衛館の奴ら以外とは会うこともねえ。年頃の娘に酷だってのはわかってんだよ」
「恨むなど……バチが当たります。本庄宿では、私が間違っておりました。訳はどうあれ、力を人前で使うべきではありませんでした」
すみれはにっこりした。
軟禁されているとは思っていない。これは謹慎という罰なのだ。
「そうじゃねえ。そのことはいいんだ。そうじゃなく……いや、なんでもねえ」
歳三は姿見で羽織の衿を整えると、すみれの頭をくしゃっとした。
「もう少し待ってろ。そのうち、お前を自由にしてやるから」
「はい、ありがとうございます」
「行ってくる。留守を頼む」
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